ゼロからわかる電子契約入門

2021/07/02 2024/01/09

監修:朝倉由美(弁護士。弁護士法人One Asia所属)

電子契約という言葉は知っているけど、「結局何なのかイマイチ分からない」という方は多いのではないでしょうか?

電子契約を一言でいうと、契約書をデータ化してオンラインで行う契約のことです。これまでは契約書に印鑑を押すことで契約が成立した証拠としていましたが、電子契約では印鑑の代わりに電子署名を利用することで法的に証拠力が認められるのです。

このページでは、電子契約とはどのようなものなのかをゼロから分かるように解説していきます。

電子契約とは【基礎知識】

電子契約の種類

電子契約の種類
  1. 契約をオンラインで完結させるもの
  2. 対面での署名を電子端末で行う物

上記1はさらに以下の2種類に分かれる。

  1. 立会人型の電子署名を使用するもの
  2. 当事者型の電子署名を使用するもの

電子契約は契約締結作業の実施形態によって2種類に分かれているほか、契約をオンラインで完結させるものは使用する電子署名(詳細後述)の種類でさらにそれぞれ2種類ずつに分かれます(計3種類)。

契約作業の実施形態には、契約自体をオンラインで完結させるものと対面での署名を電子化するものの2種類があります。
一般企業で利用されるのは前者の電子契約で、契約書をオンラインで相手方に送って署名してもらうというもの。一方で後者の電子契約は、買い物などで自分の名前を署名するときのサインをタブレットなどの電子端末に記載することで電子化するというものです。

また、契約をオンライン上で完結させる電子契約において使用する電子署名には「立会人型」と「当事者型」の2種類があり、これによっても2つの種類に分けられています。

当事者型の電子署名は登録にコストや時間がかかる代わりに、立会人型の電子署名と比較して法的な証拠能力が高いため、契約書により強い証拠能力やセキュリティを求める企業で利用されます。
ただし、電子契約において多数派であるのは立会人型の電子署名を使用する電子契約であり、立会人型の電子署名の法的効力に実用性が無いわけではありません。

このように、電子契約には複数の種類がありますので、導入を検討する際はそのサービスが本当に自社の用途に合っているサービスなのか確認が必要です。

電子契約の仕組み

電子契約はPDFファイルなどで契約書を送り、オンライン上で相手の合意を得るものですが、単にPDFファイルを送るだけでは正式な契約書として認められません。電子契約で締結した契約書が正式なものとして認められるためには、送付するPDFファイルを暗号化することで本人性を担保し、改ざんを防止するセキュリティを備え、受信側が送付されたPDFファイルの本人性や改ざんされていないことを検証することが必要になります。

電子契約は、送付側は秘密鍵と言われる技術によってPDFファイルを暗号化して契約書を送り、受信側は公開鍵と言われるパスワードのようなものを入力することでPDFファイルにアクセスできるという仕組みになっています。この秘密鍵で暗号化されたファイルは特定の公開鍵でしかアクセスできないので、本人以外が契約書にアクセスすることはできません。これらの暗号化に電子署名という機能が利用され、またセキュリティをより強固にするためにタイムスタンプという技術が利用されているため、電子契約では法的効力が担保できています。

印鑑不要で契約が成り立つ仕組み

電子契約に印鑑が必要か不要か、気になっている方もいると思いますが実は印鑑は不要です!
そもそも契約書に印鑑は必須のアイテムではなく「本人が契約したこと」と「改ざんされていないこと」が証明できれば印鑑自体が必要ありません。 電子契約では、電子署名とタイムスタンプという2つの機能で本人確認・改ざん防止が可能であり、そのため電子契約に印鑑は不要なのです。ここでは電子署名とタイムスタンプが、それぞれどのような役割を果たすのかご紹介します。

電子署名とは

電子署名とはその名の通り、電子の署名です。一般の印鑑のように目には見えないものの、オンライン上で印鑑の役割を果たすものとイメージしてください。

契約においては本人が合意の上で結ばれたものであること・契約書の内容が改ざんされて いないことを証明することが必要ですが、電子署名では公開鍵暗号方式により、契約書の 本人性を証明しており、また契約書の改ざんができない仕組みとなっています。

公開鍵暗号方式とは、電子契約に使われている暗号技術で簡単に説明すると契約書を暗号化することで、パスワードを持っていない人が契約書を開けないようにする仕組みです。取引間でパスワードをきちんと管理していれば、取引の関係者以外は契約書を見ることすらできません。また、契約書の内容を変更しようとすると検知される仕組みなので改ざんも防止できます。

つまり、電子署名によって「誰が」「どんな契約」を結んだかが正確に記録されるということなのです。

 

タイムスタンプとは

タイムスタンプの仕組みの図解

タイムスタンプも時刻を記録するもので、具体的には契約書が作成された時刻、契約書が最後に更新された時刻などの時刻を記録します。契約書がいつから存在しているのかが証明できるのに加え、もし改ざんされていた場合は改ざんされた時刻が最後に契約書が更新された時刻として記録されるため、原本のデータと見比べることで契約書が改ざんされていないことが簡単に分かるという仕組みになっています。

電子署名だけでは契約が「いつ」取り交わされたのか分かりませんが、タイムスタンプと 組み合わせることで「誰が」「いつ」「どんな契約」を結んだのかが証拠として残るので、安全に利用することができるのです。

電子契約に関する法律と法的効力の根拠

電子契約の仕組みを紹介しましたが、利用する前に電子契約がどのような法律によって成り立っているのかについても、知っておく必要があります。ここでは電子契約が法的効力を持つのはなぜなのか、根拠となる法律について紹介した上で分かりやすく解説します。

なお、電子契約に印鑑が不要な法的根拠に関する詳しい解説は以下の記事で行っておりますのでぜひご活用ください。

電子署名法

電子署名法第三条

簡単に説明すると、「電子署名が本人によって行われているのなら法的効力を認めます」という内容です。つまり、情報を適切に管理して第三者が契約できない状態であれば、電子契約も法的効力が認められるのです。
また「電子署名法2条1項に関するQ&A」によると、本人の意志によって契約される場合であれば、本人以外が代わりに契約することも認められています。

電子署名法第二条
電子署名法第二条の要件
  1. なりすまし・書類の改ざんや改変がされていないこと。
  2. なりすまし・改ざんがされていないことを証明できること。

第二条では電子契約が法的効力を持たせるために満たす必要がある要件について述べています。具体的には上記の2点を満たす必要があります。この2点を満たし、安全性を確保するために必要なのが電子署名・タイムスタンプなのです。

電子帳簿保存法 第4条

電子帳簿保存法の要件
  • 記録の訂正・削除履歴が後から確認できること。
  • 電子計算機処理システム、電磁的記録の備付及び保存に関する事務手続きを明らかにした書類を備付けること。
  • システム関連書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備えておくこと。
  • 保存場所に電子計算機・プログラム・ディスプレイ・プリンタ・これらの操作説明書を備え、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できること。
  • 主要な記録項目、日付や金額で検索できること。また2つ以上の記録を組み合わせた条件で検索できること。

参考:電子帳簿保存法

こちらは書類を電子データとして保存することを認めるという内容の法律です。電子データとして保存するために満たすべき要件が多くありますが、初めから要件を満たしている電子契約サービスを導入すれば問題はありません。

電子契約のメリット・デメリット

ここ数年で急速に広まっている電子契約ですが、紙の契約書で行っていた契約には無い多数のメリットがある一方でデメリットもあります。ここでは知っておくべきメリット・デメリットを紹介します。

電子契約のメリット

1.契約業務の手間と時間を削減できる

電子契約のメリットとして真っ先に挙げられるのが、契約に割いていた手間と時間の削減です。紙の契約では必要だった、印刷・製本・押印・郵送など多くの業務が不要になるため、契約書の作成や送付、連絡に使っていた手間や時間を大幅に削減できます。一時期、ハンコのために出社するという話が話題になりましたが、電子契約ではそのような必要もないばかりか、数分で簡単に契約を締結することが可能です。

2.コストを削減できる

紙の契約書を使った契約には、印紙代や切手代、事務作業を行う従業員の人件費がかかりますが、電子契約ではそれらの費用が全てカットできるというメリットもあります。一回の契約ではそれほど気にならない費用も積み重なると無視できない金額になりますので、経費削減の効果は大きなメリットです。

3.書類の保存と管理が簡単

締結した契約書をオンラインで保存できるという点もメリットです。従来の紙の契約では契約書の保存のためにスペースを確保する必要がありますし、契約書が増えてくるといかにきれいに整理しようとも探すのが大変になります。しかし電子契約では、オンラインで保存するので収納スペースを確保する必要はありませんし、検索機能を使って必要な時に必要な契約書を簡単かつスムーズに見つけることができます。

4.セキュリティ対策につながる

紙の契約書の場合、オフィスが盗難や自然災害、火事などの被害にあうことで契約書が消失してしまうリスクがあります。しかし、電子契約であればデータを分散して保管しているため、このような事態にあっても契約書の安全を守ることが可能です。

電子契約のデメリット

1.電子化できない契約書がある

デメリットとしては契約できない書類があるという点です。例えば不動産関係の書類は電子化できない、もしくは一部のみ電子化できる書類が含まれています。自社で電子契約を導入する際は、自社の契約書が電子化できるのか確認しておくことは必須です。

2.取引先の同意・理解が必要

各企業の状況による部分が大きいですが、電子契約は自社の都合だけで利用できないことがある点もデメリットです。利用の際は取引相手の同意や利用方法を理解してもらう必要があり、これは一つのハードルとなっています。

しかし、電子契約サービスは取引相手にもある程度のサポートを提供している会社や、電話によるサポートを行っている会社もあるため、このようなサービスを選ぶことでこの不安やデメリットは解消することが可能です。現在ご覧になられているクラウドコントラクトも電話サポートによって使い方を丁寧に解説しておりますので、ぜひご検討ください。

3.サイバー攻撃のリスクがある

電子契約ではサイバー攻撃の可能性がある点もデメリットとなります。もちろん、ほとんどの会社がきちんとしたセキュリティ対策を施しているのでサイバー攻撃で被害が生じる可能性は低いですが、検討している会社のセキュリティがきちんとしているかは確認する必要があります。

ちなみに、紙の契約書の場合はサイバー攻撃の代わりにオフィスが盗難や災害にあう可能性があるため、紙の契約書であっても消失や情報漏洩のリスクはあります。

【こんな使い方も】電子契約サービスの活用術

ここまでの内容で、電子契約は取引先との契約をオンラインで行うものだと認識している方が多いと思います。しかし、実は電子契約サービスには他にも様々な使い方があり、契約以外のシーンで活用することでさらなる業務の効率化が期待できます。

ここでは電子契約サービスを活用できるシーンや活用方法をご紹介します。

1.社員の管理業務を効率化する

労働条件通知書や雇用契約書、守秘義務などの誓約書といった社内で交付し各従業員の署名をもらう書類も、電子化すれば電子契約サービスを使って送付することが可能です。
これらの書類を電子交付すれば各従業員に支給しているパソコンやスマホで署名をもらうことができ、管理画面上から各従業員の契約の締結状況を確認することもできるため、管理の手間が大幅に省けます。テレワークも行いやすくなりますので、電子契約サービスを導入した際は社内でも積極的に活用していきましょう。

2.外注(業務委託)・フリーランスの管理を効率化する

外注・業務委託契約なども電子契約で行うことができます。契約書の送付から締結をオンラインで簡単に素早く行うことができるので、多くの外注先と連携する企業や仕事の条件が毎回異なり契約回数が多くなる企業では、特に大きな業務効率化が見込めます。管理の手間が大幅に減らせる点も大きなメリットでしょう。

また電子契約では契約書を改ざん・改変した場合、変更履歴が残るシステムになっているので万が一のトラブルにも備えることができるので、外注(業務委託)・フリーランスとの契約も電子契約を活用していくメリットが大きいです。

電子契約の導入の流れ

電子契約を導入する大まかな流れを解説します。最低限やっておくべき事はこちらに記載されているのでご活用ください。 なお、より詳細な導入手順はこちらの記事で解説しています。

1.利用する電子契約サービスの選定

まずは利用する電子契約サービスを選びましょう。現在は多種多様な電子契約サービスが提供されているので、機能や価格の観点から自社に合った電子契約を選定することが大切です(※電子契約サービスの詳しい選び方は後述しますのでご参照ください)。

2.契約フローの整理

次に電子契約での契約フロー(契約までの手順)を整えます。電子契約は紙の契約と手順が異なる部分があるので、電子契約用に契約の手順を記した資料を作成して社内に共有しましょう。紙の契約の手順がそのまま箇所もありますが、変更すべき箇所は必ず生じるのでこの作業は必須です。少なくとも社内承認プロセスなどは整理する必要があるでしょう。

3.社内規定の整備

社内規定整備の必須項目
  1. どの契約書類で電子契約を使用するか決める
  2. 電子契約のアカウントを管理する担当者を決める
  3. 電子契約での契約の業務フローを決める

紙の契約では有効だった規定が電子契約ではうまく機能しないことがあるため、社内規定(ルール)を整備しましょう。例えば押印における規定や電子データの管理における規定を修正する必要があります。

4.社内と取引先へのアナウンス

最後に社内・社外(取引先)へのアナウンスを行う必要があります。電子契約の操作方法や使用上の注意に関して説明し、電子契約への移行をスムーズに行いましょう。また取引先が電子契約に難色を示したときのために、契約書の送信相手もサポート利用できる会社から導入すると安心です。

現在ご覧いただいているクラウドコントラクトは契約書の送付先である取引先の企業様の問い合わせにも丁寧に対応しており、電話サポートも提供しています。

より詳細な電子契約の導入手順

電子契約導入の11ステップ
  1. 導入する目的を明確化する
  2. 法務関係者へ説明を行う
  3. 電子契約を活用する書類の決定
  4. 各社の電子契約サービスを比較検討する
  5. お試し利用で使い勝手を確認し導入するサービスを決定
  6. 電子化する契約書の文面を確認・変更する
  7. 電子契約の運用方法・承認ワークフローを整理する
  8. 社内規定を電子契約に対応したものに整備する
  9. 電子契約の導入&運用ルールを全社にアナウンスする
  10. 取引先への通知・説明を行う
  11. 電子契約サービスを契約する

これらのより詳細な方法の解説は以下の記事で行っています。

電子契約サービスの選び方&ポイント

電子契約サービスは機能や料金、認知度などでそれぞれ特徴を持っています。もしサービスの選定を誤ってしまうと、想定していたよりも効果が出なかったり、使いにくさを感じたりする場合があるので注意が必要です。

ここでは電子契約を選ぶ上で注意すべきポイントをご紹介します。

機能とコストのバランス
一般的に、高機能なサービスになるほど利用料金も高くなります。機能数だけを見るとキリが無いため、自社の課題を先に把握しておき、自社に必要な機能と掛けられるコストの額をよく考えることがサービス選びを成功させるために重要なポイントです。
使いやすさ
操作が複雑なサービスは使いづらく、社内に定着しにくいです。取引先に混乱が生じることも予想されますので、機能面だけでなく使いやすさも考えて導入する電子契約サービスを選ぶのがおすすめです。
サポート体制
電子契約導入当初は慣れない作業でトラブルが発生することが予想されます。社内と取引先の両方にサポートが提供されて、サポートの手段も豊富(電話・チャット・マニュアルなど)なサービスを選ぶのがおすすめです。

【具体例】経費削減したい場合

まずは月額料金を確認しましょう。電子契約では印紙税・人件費・郵送費など紙の契約にかかる費用が削減できますが、紙の契約にかかる費用以上の月額料金が発生する電子契約サービスを導入してしまうとかえって費用がかさんでしまいます。1ヵ月の契約業務でかかる費用を削減できるサービスを選定しましょう。

【具体例】セキュリティを強化したい場合

セキュリティを第一に考えている場合は、セキュリティに関する機能がどの程度備えられているか確認しましょう。例えば二要素認証やIPアドレス制限などが挙げられます。また電子証明書もセキュリティ強化に効果を発揮します。
これらの機能があればセキュリティはかなり強化できますが、契約にかかる手間や取引先が行うべき準備が増えてしまう点には注意しましょう(※電子契約サービスは通常でも強固なセキュリティを備えているため、これらの機能は必須ではありません)。

【具体例】工数を削減したい場合

画面が分かりやすいか、直感的に操作できるか確認しましょう。簡単に契約を結ぶために電子契約を利用したい方であれば、どれだけ使いやすいか・ストレスなく利用できるかが最も重要です。ただし、操作性は実際に利用しないと分からない部分が多いため、無料のトライアルを試した上で導入するサービスを選択することをおすすめします。

電子契約に関するよくある疑問

ここからは電子契約に関するよくある疑問をご紹介していきます。

1.電子証明書とは

認証局と呼ばれる国の第三者機関が発行する、紙の契約書で必要となる印鑑証明書のようなものです。契約手続きが契約者本人によって正式に行われたことを証明します。
これを導入することで第三者によるなりすましを確実に防止できるわけではないため無理に導入する必要はありませんが、よりセキュリティを強化したい場合には導入を検討してみましょう。

2.取引先から電子契約を依頼された時の対応方法は?

「取引先から電子契約による契約の締結を要求されたが、自社では使っていないので対応方法がわからない!」「取引先から依頼されたこの機会に電子契約に切り替えたいが、上司に言っても難しいからと否定されそう」といった状況の方は、以下のポイントを確認して導入の可否や方法をご検討ください。

まず初めに、取引先が導入している電子契約サービスが「立会人型」「当事者型」のどちらのタイプかを確認しましょう。

「立会人型」は自社では会員登録が不要(=契約書の送信者のみ必要)な、メール認証で本人確認が完了する比較的手軽な電子契約サービスです(業界で主流なのはこちらで、現在ご覧いただいているクラウドコントラクトも立会人型になります)。
一方で、当事者型のサービスは電子証明書を利用するサービスであり、セキュリティがより強固である反面、自社(=受信者)でも会員登録が必要で数万円~のコストが発生します。

また、電子契約の導入には以下のような準備が必要となるため、こちらも確認しておきましょう。

  1. 社内規定の確認と変更(電子契約を利用可能な契約手段として追加)
  2. 契約書の種類の確認(電子契約が禁止の契約書も!)
  3. 契約書の文言の確認(電子契約では表現の変更が必要!)
  4. 電子契約サービスの操作方法の確認

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