【不動産取引の電子契約】スムーズな導入の流れと注意点をシンプルに解説

2023/07/14 2023/07/19

契約書類の電子化をはじめ、多くの業界で業務効率化を目的としたDX化が進んでいます。ただし高額な取引が多い不動産業界においては、長年の商習慣も手伝い「紙」でのやり取りが続いてきました。ここにきて、デジタル改革関連法の成立や宅地建物取引業法の改正など法整備も進んだ結果、ようやく不動産取引での電子契約が可能となったのです。

この記事では今後ますます進んでいくであろう不動産取引での電子化について詳しく解説します。また契約を電子化するメリットや具体的な手順、迅速に取り入れるためのポイントについてもわかりやすくお伝えします。

不動産契約の電子化 法改正のポイントと現状

不動産取引においては、さまざまな契約手続きを行うことが必要になります。その際の契約書は書面が基本となってきました。 しかし業務効率化を図る中で書類のペーパレス化が進み、不動産契約でも電子化のニーズが高まってきました。加えて対面での取引が困難となるコロナ禍を経て、不動産契約の電子化が加速します。2021年5月に成立したデジタル改革関連法案のうち宅地建物取引業法(宅建業法)施行規則の一部が改正。2022年5月には不動産取引の電子化が解禁され、書面の作成や押印についても電磁的方法が認められるようになったのです。

2022年5月に施行された法改正のポイント

重要事項説明書(35条書面)と不動産売買契約書(37条書面)の電子化が認められた

不動産取引において、交わすべき書面として大きな意味を持つのが重要事項説明書(35条書面)と不動産売買契約書(37条書面)です。これらの書類において、従来は宅地建物取引士(宅建士)が押印をした上で、書面での交付が義務づけられていたのです。今回の改正により、紙ではなく電子での交付が可能となりました。

上記の書類に関する宅地建物取引士(宅建士)の押印義務も廃止

宅地や建物の取引の公正さを保ち、適正に進めるため、不動産取引の専門家である宅建士による押印が必要とされた経緯があります。
しかし35条書面、37条書面の電子化が認められ、宅建士の押印義務はなくなりました。宅建士の記名(電子署名)で契約を進めることができるようになったのです。

上記の改正とIT重説と電子契約を活用すれば、申込〜締結までの一連の流れを非対面(オンライン)で完結が可能に

35条書面の作成にあたっては、賃貸借契約に関する「重要事項説明」として宅建士が対面で行うのが前提とされてきました。
しかし2017年10月1日より賃貸契約が、2021年4月より売買契約でもIT機器を活用した非対面での実施(IT重説)が可能となっています。契約に必要な35条書面、37条書面の電子化と合わせ、すべての流れを非対面(オンライン)で進め、完結できるようになったのです。

電子化できるようになった契約の一覧

不動産取引は高額な内容が多く、トラブルを防ぐため多くのルールのもと契約が取り交わされています。それぞれ関連する法律において、書面化が必要とされてきました。以下は不動産取引において電子化が可能となった契約です。

宅地建物取引業法

宅地・建物の取引を公正かつ円滑に進めるための規制を定めた法律。

  • 重要事項説明書(35条書面)
  • 媒介契約(不動産会社に仲介を依頼する際に売主と契約)、代理契約締結時の交付書面
  • レインズ(REINS)登録時の交付書面
  • 売買契約、交換契約、賃貸契約締結時の交付書面(37条書面)

借地借家法

定期借地権、定期建物賃貸借といった土地や建物を借りる時の権利やルールについて定めた法律。

  • 一般定期借地契約
  • 事業用定期借地契約(公正証書のみ可能)
  • 定期建物賃貸借契約、定期建物賃貸借契約説明書面

紙の書類の契約と電子契約の違い

まず「紙」と「電子データ」を用いるという形式面での違いがあります。加えて電子契約では電子署名(電子サイン)を用い、紙で必要な押印は電子契約では不要です。紙の契約では欠かせない印刷や郵送コスト、印紙代も必要ありません。また電子契約はデータとしてサーバーに保管するため、書棚など物理的な保管場所もいらないのが特徴です。電子契約であれば、場所を問わず、どこからでも内容の確認ができます。

電子化はどこまで進んでいる?今後の見通し

法改正の後、不動産業界の電子化はどの程度普及しているのでしょうか。不動産テック7社・1団体は、不動産事業者に対して行ったアンケート「不動産業界におけるDX推進状況」によれば、電子契約へ「移行したい」と考えている不動産事業者が83%、また「移行したい」との回答した事業者の中で、すでに移行準備を行っている事業者は30%とニーズの高まりがうかがえます。

不動産業界内において、電子契約移行への関心が高まっている事実がわかりました。さらに利用する消費者の側でも、電子契約の普及に期待の声が上がっています。GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社と株式会社いい生活の共同調査によれば、「内見から契約までオンライン完結できる不動産会社を積極的に利用したい」との質問に62.6%が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えています。今後、消費者の電子化への関心が高まりに合わせ、不動産業界の電子化はさらに普及することが予想される結果といえるでしょう。

不動産の電子契約のメリット・デメリットと対処法

不動産の電子契約には業務効率化をはじめ、多くのメリットがある一方でデメリットも存在します。契約や取引次第で柔軟な対応が必要になるため、対処法のポイントを押さえることが鍵となります。

メリット

スピーディな契約締結が可能になる

電子契約では、場所を選ばずに取引ができます。売主や買主が集まる必要もなく、別途スケジュールの調整も不要です。書類を郵送する手間も省けるため、取引開始から契約締結まで迅速に進められます。

書類作成のコスト削減・印紙税が不要になる

書面における契約書作成や製本などの手間が必要なくなります。そのため電子契約では、用紙やインクにかかる費用・人件費などのコストも減らせます。また電子データを扱うため、印紙が不要となり、印紙税削減にもつながります。

書類管理の効率化ができる

契約書面は電子データとして保存されるため、物理的な保管スペースも不要となります。また必要な場合はすぐに検索でき、管理面での効率アップが図れるのもメリットです。

デメリット

電子化できない契約がある

法改正により、不動産取引に関わる多くの契約書類の電子化が進みました。しかし取引に関するすべての契約を電子化できるわけではありません。

先方の承諾が必要

電子契約を行うには、売主、買主、仲介者など関係者それぞれの合意が不可欠です。不動産オーナーの中には、ITに苦手意識を持つ方も少なくありません。契約に関係する誰かが電子取引を望まない場合、電子契約の締結は難しいでしょう。

セキュリティ対策をする必要がある

書類の電子化により、改ざんなどのリスクが高まります。またサーバー上に保管するため、情報漏洩などに気を配らなくてはなりません。セキュリティや安全性の高いシステム導入を検討することが重要です。

対処法

効率性を高め、取引をスムーズにするなどメリットの多い電子契約にはデメリットもあります。デメリットへの対策としては次の3つに力を入れることが大切です。

電子契約の業務フローをつくる

従来の契約手続きをアレンジする形で、電子契約業務に関するフローを構築しましょう。どのような準備が必要で、既存の業務に加えてどのような工数がかかるのかをあらためて確認します。業務の属人化を防ぐため、新たなマニュアルの作成も行います。

オンラインのツールを導入する

IT重説はWeb会議システムを用いて行います。このように電子契約にあたってはオンラインツールの導入が欠かせません。

電子契約サービスを利用する

不動産取引において、電子契約書が法的に有効かどうかが大きなポイントです。電子署名を活用した正しい契約締結を行うのなら、電子契約サービスを利用することをおすすめします。第三者からの不正アクセスや情報漏えいリスクなどに対するセキュリティが万全なサービスを選ぶようにしましょう。

不動産取引の電子契約の導入のための流れ

不動産取引で電子契約を導入するにあたっては、メリットを生かしつつ、デメリットにも十分配慮する必要があります。ここからは前項の対策を実施するためのポイントを中心に電子契約導入に関わる一連の流れをご紹介します。

不動産取引における電子契約の流れを確認

STEP1:重要事項説明書・契約書のアップロード

契約内容を記した契約書と重要事項説明書を電子ファイル(PDF)にし、アップロードします。

STEP2:IT重説の実施

テレビ電話やパソコン、タブレット端末などのITデバイスを用い、宅建士が重要事項説明書に基づいた説明を実施します。

STEP3:契約者による電子署名

IT重説が終わったら、契約者が電子署名を行い、電子契約を取り交わします。

STEP4:契約の電子データをサーバーに保管

契約を取り交わしたデータをサーバーにキープして終了です。

電子契約の事前準備

まずは、電磁的方法で書類を交付することに対し、相手方の意向を確認し、承諾を得るのが大前提です。電子交付する書面の内容に文字化けや改変がないか確認します。自社、相手方のIT環境を確認し、映像や音声の乱れがないように環境を整備します。IT重説では、宅建士の取引士証(名前、登録番号)の確認が必要になります。

電磁的方法で書類を交付する際の条件
  1. 書類が改変されていないかどうかを確認できること書類の改変がなされていないことの証として電子署名やタイムスタンプがあります。
  2. 相手方が契約書類を書面として紙で出力できること
  3. 署名の作成者が誰なのかを確認できること

さらに詳しい内容は不動産契約の電子化を検討している方必見!電子化にするための方法やメリットを解説をご覧ください。

必要なオンラインツールの導入

不動産取引での電子契約を実施するためには、オンラインツールが必要です。

IT重説のためのオンライン会議システムの導入

不動産物件の契約の際、Web会議システムなどを用いてオンラインでIT重説を行うためです。

例:zoom、Skypeなど

電子契約のための電子契約サービスの導入

不動産取引における電子契約では、電子書面が改変されていないかなどの要件を満たす必要があります。契約書に法的根拠を持たせる意味でも、信頼できる電子契約サービスを導入することが重要です。

社内環境の整備と業務フローの策定

電子契約の導入にあたり、書面での運用とは異なる業務フローが発生します。誰もが共通認識を持って業務に当たるには、社内での業務共有が必要になります。新たにマニュアルを作成するのも一案です。電子契約一般の導入のガイドとしては、より詳しい内容が解説されている以下の記事をご参照ください。

電子契約の導入【これだけ見れば理解できる!】導入手順・注意点を詳しく解説します。

電子契約導入時の社内ルール設定ポイントとは?

電子契約を実施するときに押さえておきたい法律

消費者の意思により契約を取り消すことのできるクーリングオフは、電子取引においても適用されます。電子契約が法的な効力を持つためには、法律に則った作成、運用を行わなければなりません。

特に注意したい特に注意したい法律を2つご紹介します。

電子署名法

従来の契約書における署名や押印は書類の法的な有効性を担保していました。電子契約にあたっても、同じような証拠力を持たせるために定められたのが電子署名法です。特に電子データはなりすましや改ざんなどのリスクが懸念されます。電子署名についてのルールは次のように定義づけられています。

本人が行ったこと

署名は「本人」が行った証拠が必要になります。その証明が「電子証明書」の付与です。特殊な暗号技術を用い、「本人」ではない誰かがアクセスできないようなシステムを講じます。電子署名法を満たした電子署名を行えるサービスを提供するのは、国が認定する業者に限定されています。

改変されていないことが確認できるもの

契約書が原本であり、改変されていない証としてデジタル技術「タイムスタンプ」を付与します。

電子署名の技術や仕組みについては、以下の記事で詳しく紹介しています。

【図解】電子署名とは?役割や仕組みをわかりやすく解説

電子帳簿保存法

電子取引を行う際の契約書はただ保管しておくだけでなく、必要な要件を満たさなければなりません。電子的な保管の要件は、電子帳簿保存法で定められています。

電子ファイルの契約書が改ざんされていないことを証明できること

電子が正しい内容であるかを示すため、電子契約をデータ保存する場合、原則として全ファイルへの認定タイムスタンプの付与が必要になります。(施行規則8条1項1号、および3条5項2号ロ)。
訂正、削除を行った事実・内容が確認できるシステム、もしくは訂正・削除がそもそもできないシステムへの保存を行わなければなりません。

必要な時に速やかに画面・書面に出力できるように保管しておくこと

タイムスタンプの活用について知りたい方は、【図解】タイムスタンプは電子契約に必須!役割・仕組みを簡単解説がわかりやすいです。

まとめ

デジタル改革関連法により、不動産業界においてもDX化が推進されています。賃貸や売買など不動産取引における契約業務の電子化が可能となりました。宅建士が対面で行ってきた重要事項説明もデジタルデバイスを活用し、非対面でのIT重説として行うことができます。申込から締結までの一連の流れをオンラインで行えるため、コスト削減や業務効率化が期待できます。

現状ではすべての電子化は難しいものの、消費者のニーズ増加も予測されています。正しい取引を行い、法に則った契約書を作成しなければ意味がありません。電子契約の法規制に対応した「電子契約サービス」を選ぶことが真の意味での業務効率化の鍵となるでしょう。

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