商取引の契約書や5万円以上の領収書など、一定の条件のもとに作成された文書に貼付される収入印紙。「電子取引の場合は、どうすればいいのだろう」と疑問に思ったことはありませんか?
電子取引で交わされる契約書や領収書の場合は、収入印紙は不要です。この記事では、電子取引において収入印紙が不要である理由について、法的根拠からお伝えします。また、電子契約には印紙代削減以外にも多くのメリットがあります。導入する時のポイントについてもわかりやすく解説します。
収入印紙・印紙税とは?
最初に、収入印紙や印紙税について簡単に確認しておきましょう。「収入印紙」とは、税金・手数料納付をした証として国が発行する証票(紙片や札)にあたります。印紙税の支払いに用います。
「印紙税」は、契約書や領収書などの書類などに課された税金です。税金がかかる条件は法律で定められています。
印紙税とはどんな税金なのか
印紙税の成り立ちは古く、日本では明治6(1873)年に導入されています。財務省が公表する印紙税の概要によれば、「各種の経済取引に伴い作成される文書の背後にある経済的利益に担税力を見出し、負担を求める税」となっています。
つまり、経済活動に関連して作成される文書であるため、税金の支払いに見合うだけの利益があると見なされて課税されているのです。
ただ現在は、「何にどういう形で税金がかかるのか」を明らかにした消費税や法人税、所得税などが課されています。印紙税の成り立ちや課税理由は明確とはいいづらいため、「二重の課税である」との見方も存在します。
以前にはペーパーレス化を推進する河野大臣から「収入印紙の廃止や見直し」が提言されたこともあります。しかし印紙税は重要な財源のひとつでもあり、廃止の実現は難しいと考えられています。
印紙税がかかる主な書類
実際に印紙税の対象となるのは、20種類の文書です。印紙税法別表1にそれぞれの課税文書の内容が記されています。代表的な文書は次の通りです。
- 1号文書 不動産譲渡契約書、消費貸借契約書
- 2号文書 請負に関する契約書
- 3号文書 手形
- 6号文書 定款
- 7号文書 継続的取引の基本となる契約書(売買取引基本契約書、業務委託契約書、代理店契約書など)
- 17号文書 売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書(領収書など)
- 18号文書 預貯金通帳など
なお、印紙税法別表1に記載のない文書に関しては、原則課税されません。
参考:国税庁「印紙税額一覧」
印紙税法別表1を一読しただけでは課税対象外かどうかの判断は難しい文書もあるので注意しましょう。収入印紙について、より詳しく知りたい方は次の記事も参考にしてください。
電子契約では収入印紙が不要となる法的根拠
上記の書類であっても、電子契約の場合、収入印紙は不要です。ただ、実は電子契約が印紙税の課税対象外であると明記した法律はありません。では、なぜ電子契約の場合は収入印紙が不要になるのでしょうか。
電子取引が課税対象外と見なされる法的な根拠は、次の3つの考え方が基本となっています。いずれも印紙税は「紙」の文書に課されることが明確に示されています。順に見ていきましょう。
印紙税法基本通達
印紙税法では、「課税文書」の「作成」に納税義務が発生するものと定義されています。この「作成」の内容については、印紙税法基本通達44条によって定められています
“ 第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。 ”
用紙、つまり紙の書面に課税に関する項目を記載し、印刷したうえで相手方に「交付」してはじめて「作成」にあたると解釈できます。書面として印刷することなく、契約書の電子データを送信する電子契約は「課税文書の作成にあたらない」ことになると判断できます。
また電子契約書をプリントしても、そこに押印しない限りは原本にはあたりません。「控え」と見なされ、印紙税の対象外となります。
ただし、印刷した書面に署名・押印・原本証明のいずれかをする場合には、印紙税の対象となってしまう点に注意が必要となります(印紙税基本通達19条2項)。
“ 第19条 契約当事者間において、同一の内容の文書を2通以上作成した場合において、それぞれの文書が課税事項を証明する目的で作成されたものであるときは、それぞれの文書が課税文書に該当する。
2 写、副本、謄本等と表示された文書で次に掲げるものは、課税文書に該当するものとする。
(1) 契約当事者の双方又は一方の署名又は押印があるもの(ただし、文書の所持者のみが署名又は押印しているものを除く。)
(2) 正本等と相違ないこと、又は写し、副本、謄本等であることの契約当事者の証明(正本等との割印を含む。)のあるもの(ただし、文書の所持者のみが証明しているものを除く。) “
国税庁の文書回答事例
法的根拠の2つめは、国税庁が公開する文書回答事例にあります。電子契約のケースで「印紙税が非課税」との見解を示した2つの事例についてご紹介します。
コミットメントライン契約に関して作成する文書についての見解
国税庁は、2006年7月19日見解「コミットメントライン契約に関して作成する文書に対する印紙税の取扱い」で以下のように回答しています。
“ 請求書や領収書をファクシミリや電子メールにより貸付人に対して提出する場合には、実際に文書が交付されませんから、課税物件は存在しないこととなり、印紙税の課税原因は発生しません。
また、ファクシミリや電子メールを受信した貸付人がプリントアウトした文書は、コピーした文書と同様のものと認められることから、課税文書としては取り扱われません。 ”
コミットメントラインとは、銀行と顧客との間で合意した一定の期間に、通常の審査をせずに融資を受けられる融資枠を言います。コミットメント契約では、「ファクシミリや電子メール」で契約が交わされ、文書が交付されるわけではありません。
ですから、「課税される文書」が存在しないのです。国税庁が電子化された契約書には課税しない旨を明らかにした回答と言えるでしょう。
加えて、契約書を受け取った側が印刷した文書も「コピー」、つまり控えとみなされているため、非課税となることがわかります。
請負契約に用いる注文請書についての見解
国税庁は、注文に対する応諾を示す注文請書について、2008年10月24日の回答で次のような見解を示しています。
「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」
“ 印紙税法に規定する課税文書の「作成」とは、印紙税法基本通達第44条により「単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう」ものとされ、課税文書の「作成の時」とは、相手方に交付する目的で作成される課税文書については、当該交付の時であるとされている。
上記規定に鑑みれば、本注文請書は、申込みに対する応諾文書であり、契約の成立を証するために作成されるものである。しかしながら、注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。 ”
先ほど「印紙税法基本通達」の項目で、契約書で課税される「作成」が「書面」として交付にあたることを解説しました。この「作成」は、最初の発注や注文時に成されるものです。
このやり取りを電子契約で行っているのであれば、印紙税がかからないことが前提となります。「注文を引き受ける」証を示す注文請書の場合も、電子での取引であれば課税対象とはなりません。
国会答弁
3つめの法的根拠は、2005年3月15日に小泉純一郎内閣総理大臣(当時)が行った国会答弁にあります。
「参議院議員櫻井充君提出印紙税に関する質問に対する答弁書」
“ 事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。 ”
国のトップが「電磁的記録」を用いた文書作成を認め、課税されないことを明言しています。電子契約で取り交わされた取引が非課税となる明らかな根拠となり得ます。
印紙代の削減以外に電子契約で得られるメリット
お伝えしてきたとおり、電子契約では法に則って印紙代を削減できるのが大きなメリットです。加えて紙から電子の取引に変えることで、印紙代以外のコスト削減、時短や業務効率化が図れるなど多数の利点があります。
契約締結がスピーディーに
電子取引では、契約締結までのフローをオンラインですべて済ませることが可能です。契約書を郵送でやりとりする時間や先方まで出向く移動時間などを大幅に削減でき、スピーディーに契約を締結できます。
郵送や移動によるコストの削減
紙の契約書では、印刷・郵送、締結する場所に出向く出張費などのコスト負担がありました。郵送や移動にかかるコストも電子契約では不要になります。
契約業務の効率化
電子契約では、従来の契約において必要とされた、契約書作成から発送までのさまざまな作業も省けます。例えば契約書の印刷から収入印紙の購入と貼り付け、郵送するための封入なども不要になります。
また、電子契約サービスには、テンプレート機能や一括送信機能、社内の承認フロー機能など便利な機能が付帯しています。契約業務の大幅な効率化が期待できます。
契約書の管理にかかるコストの削減
紙の契約書では、締結後に保管スペースを確保する必要がありました。電子契約はオンラインで完結するため、保管スペースは不要です。データとして保管できる上、電子契約サービスの検索機能も活用できるため、契約書の保管・管理面での効率化も図れます。
リモートワークへの対応が可能に
電子契約はオンラインですべてのフローがこなせ、締結完了まで行えます。押印のために出社する必要もありません。社内はもちろん、社外のどこにいても契約をすすめることが可能です。
電子契約を導入するときのポイント
電子契約の導入にあたっては、法律に則った電子契約サービスの利用がおすすめです。ここからは、電子契約サービスを選ぶ際の3つのポイントについてご紹介します。
電子契約の要件を満たすサービスを選ぶ
電子契約に法的効力をもたせるためには、「電子署名法」のルールに則った運用が求められます。そのためには本人性を担保する「電子署名」と、契約書の非改ざん性を担保する「タイムスタンプ」の規程を遵守する2つの機能が不可欠となります。
電子署名には、電子契約の際の立会人となるサービス事業者が署名したことを保証する「立会人型」、電子証明書を用いて署名したことを証明する「当事者型」があります。どちらも法的根拠が認められていますが、気軽に活用できる「立会人型」が広く普及しています。
「電子帳簿保存法」に則った管理をする
2024年1月以降、電子取引による書類は、「電子帳簿保存法」に則り電子データで保存することが義務づけられました。決算や日々の取引関係の書類をはじめとする国税関係書類は、次の要件のもとデータ保存する必要があります。
- 1.真実性の確保
具体的にはタイムスタンプ、訂正削除できないシステムの利用、または事務処理規程を定めていることが求められる - 2.「日付」「金額」「取引先」で検索できること
要件を満たすため、「電子帳簿保存法」に対応した電子契約サービスを選ぶのがおすすめです。
電子化できない契約書に注意する
2022年に宅建業法が改正され、電子契約できる取引が大幅に増加しています。
ただし、すべてにおいて電子契約が可能なわけではありません。引き続き、書面での取引が義務づけられている契約は次のとおりです。
- 事業用定期借地契約(借地借家法23条)
- 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約(企業担保法3条)
- 任意後見契約書(任意後見契約に関する法律3条)
まとめ
電子契約の導入により、契約書類に収入印紙を貼付する必要がなくなります。電子取引では課税されない根拠は、印紙税法や国税庁の見解などからも明らかです。
電子契約は印紙税がかからない上、事務コスト削減や業務効率化など多くのメリットがあります。電子契約書の作成や保管に関しては法律で要件が定められているため、「電子帳簿保存法」に対応した電子契約サービスを導入することを推奨します。
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